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コラム
トンマナが大切。企業のイメージ戦略
トンマナが大切。企業のイメージ戦略
メッセージとともに発信されているもの
スタッフ全員が同じTシャツや揃いのスーツを着ていたり、お辞儀の角度がビタッと揃っていたり、イベント会場では「どう見られるか」にとても気を遣っています。これは、格好よく見せたいとか儀礼的な意味だけでなく、実は企業のイメージ戦略によるトンマナということがよくあります。
トンマナとは、もともと広告や制作物のデザインにおいて使われている言葉で、色やイラストの雰囲気などの「トーン」と、その使い方である「マナー」に一貫性をもたせ、企業や製品のブランドイメージを統一させることです。
印刷物だけでなく、空間づくりや人との接遇、話し方など、企業が提供するすべての体験においてもこの言葉が使われるようになっています。どんなメッセージを伝えるか、だけでなくそれをどのような語調でどのように表現するかということも大切なのです。
スタッフの揃いの衣装は、その企業のブランドカラーを強調し、一貫したビジュアルイメージによって、参加者は視覚的に認識しやすくなります。また、コンパニオンの揃いのスーツはプロフェッショナリズムを表現していて、企業への信頼感を醸成します。
お辞儀の角度や挨拶の仕方などにも気を遣うことで、その企業の礼儀正しさや細部にわたりきちんとした仕事をするマインドを体現します。会場に来た人は企業が発するメッセージの言葉の意味そのものだけでなく、伝える手段であるトンマナも含めて受け取り、好感をもったり信頼を抱いたりしているのです。
ビジネスチャンスの拡大
一貫したメッセージを発信し続けて、その企業の価値観やビジョンに共感する人を引きつけるのが、トンマナを使ったブランド戦略です。
消費者は製品やサービスの品質だけでなく、企業自体を評価して、買うか買わないかを決めます。適切なトーンとマナーを守って発信する会社に好印象をもち、これが新たなビジネスチャンスになるでしょう。
ロゴやコーポレートカラー、スタッフのイメージ、アピールの方法に統一感を出すことで、ブランドイメージを強化し、認知度と信頼度が上がります。パッと見ただけで「あ、あの会社だ」とわかってもらうだけでなく、企業の価値観やビジョンを想起させ、明確に伝え、共感する。接触の回数、頻度がふえるたびに同じ発信でも伝わるものの量と質が向上するのです。
また、ブランドイメージが良ければ、新たなパートナーシップの機会や共同開発のチャンスも増えるでしょう。新しい市場に挑戦する場合も、高い認知と信頼を得やすくなります。
小さな積み重ねがお客様からの信頼度に
一貫した価値観とビジョンの発信は、高品質なサービス提供とともに、顧客満足度、ロイヤリティがあがり、ファンを増やしてくれます。そのメッセージがわかりやすければ、他の人にも薦めやすく、ユーザーの記憶に残りやすくなります。統一されたコンテンツは情報が理解しやすく、全体の雰囲気が損なわれないように継続することは、確かに難しいですが、それをクリアするということは、企業の事業や開発も継続的に一貫したビジョンや考えでつくっていると考えてもらえるでしょう。
日本では、伝統的なものや職人のこだわりを貫くことに対する敬意が深く、これは企業間取引でも同じです。一貫したトンマナを持つ企業は、その専門性や信頼性を示すことができ、これが顧客からの信頼度向上につながります。
信頼度が向上する。つまり顧客満足度が向上すれば、継続的に受注ができるだけでなく、その顧客が製品やサービスを他人に推奨する可能性もでますし、自然に口コミや評判による新規顧客獲得につながります。トンマナを守ることは、一見すると小さなことかもしれませんが、その積み重ねが大きな信頼となり、企業の価値を高めるのです。
企業文化の理解やモチベーション向上にも
イベントや展示会でトンマナを守って発信を続けることで、チームの一体感を強め社員が自分の仕事に対する意義や目的を見つけることになり、モチベーションとパフォーマンスを高めます。自分たちが働く企業に誇りを持つことが、社員の満足度向上や業績の向上につながります。また、企業の理念や価値観に魅力を感じた人材を確保し、新たな人材採用をしやすくなり、企業と人材の間でのミスマッチも減ります。
企業文化をすべての社員に浸透させるのは難しいですが、企業のトンマナを理解し、それに基づいて行動することが企業のビジョンやミッションを理解するきっかけになることもあり、社員教育の一環としても有効です。
ステレオタイプを避け、多様性への配慮と柔軟性を
このようにトンマナを守ることは多くのメリットをもたらしますが、一方で課題もあります。その一つが、見た目や外見に対する差別や偏見を助長する可能性です。
これまで展示会やイベントの人材派遣では、容姿端麗な人が採用されやすい、ミニスカートや露出が多い服装、女性のキャストがほとんどといった状況でした。また、女性はこうあるべき、清潔感のある服装とは…といった固定観念や個人の主観に基づくトンマナが存在していました。多様性が重要視される現代社会では、これらの固定観念は問題視され、その解決が求められています。
この問題を解決するためには、採用基準を見直し多様な背景を持つ人材が活躍できる環境を作ること、また、服装や外見についてそれぞれの個性を尊重する方向にトンマナを進化させることが求められます。
次に、トンマナが固定化しすぎると、新しいアイデアや取り組みを導入する際に制約となることもあります。企業が成長し、変化する市場環境に対応するためには、トンマナの中にも一定の柔軟性を持たせることが重要です。その両立には、「基本的な価値観やビジョンはそのままに、環境や顧客のニーズに応じて、具体的な行動や表現方法を微調整する」といった、優先順位とその方針を明確にしなければいけません。イベントのように外部の人材を活用する場合には、派遣先企業と人材派遣会社がコンセンサスを取るための擦り合わせが大切ですね。
トンマナを守るために、各企業が外部の人材にその都度適切なトレーニングを行うのは難しいと思います。そこで、私たちのような人材派遣会社は、各企業のトンマナを理解しそれを具現化できる人材を常に育成して、イベントの現場に派遣しています。トンマナの重要性を認識してそれを表現するプロ人材が、企業のブランディングとその先にある成長をサポートします。
個人の魅力が企業間のビジネスでも活きてくる
個人が好きなものを買うのと違い、高額な機材の導入や継続的契約を行う企業間取引は、合理的な判断基準だけで行われていると思われがちですが、実は個人の思考や信念も交えて判断されていることが、行動経済学で明らかになっています。
これは必ずしも悪いことではなく、経験や常識的な考え、倫理観や感情という印象のなかに、論理的思考では漏れていた要素もあり、うまく機能することも多いようです。良くも悪くも、企業の選択も最終的には個人が判断しているのが現状です。
企業ブランディング戦略において企業自体に好印象をもってもらうトンマナは大切ですが、お客様が企業のイメージを描くときに、担当のスタッフを思い浮かべることも多いです。
しかしスタッフ一人ひとりが、まったく同じ言動をしていても少し不気味なだけで、好感はもてませんよね。「ロボットみたい…」と感じてしまいます。
スタッフの個性や個人の魅力を活かしながら、企業のカラーやビジョンは共有する。そのためのツールがトンマナなのです。
企業や製品の魅力をアピールする際の、個性と信頼性のバランスを最良にするために、トンマナを調整し具現化するのが、私たちイベント人材の大切な役割だとも言えそうですね。